学校の「内壁」劣化を放置してはいけない ―― 子供たちの健康を守るための建物診断
学び舎の「内壁」に潜む沈黙の脅威
弊社は、これまで数多くの公立小中学校の建物調査に携わってきました。その中で、教室以上に深刻な状況を目にするのが、屋内運動場の舞台裏や、技術科校舎の倉庫といった「死角」となる場所の内壁です。
一見すると単なる「古びた壁」に見えるかもしれません。しかし、そこには子供たちの健康を脅かしかねない、重大なリスクが隠されています。
- 放置される「内壁」の現状
多くの自治体では予算の都合上、改修は外壁や主要な教室が優先され、倉庫や舞台裏の内壁は後回しにされがちです。
私たちが現場で目にするのは、以下のような光景です。
湿気による塗膜の浮きと剥離: 換気の悪い倉庫などで、塗料が粉末状になって床に堆積している。
経年劣化によるチョーキング: 壁を触ると真っ白な粉がつく状態。
ひび割れからの漏水: 内壁の崩落を招き、中の建材が露出している。
- 剥がれた塗料が引き起こす健康リスク
かつての建築現場で使用されていた塗料や下地調整材には、現在の基準では「有害」とされる物質が含まれている可能性が極めて高いのです。
懸念される有害物質
石綿(アスベスト): 1980年代以前の建築物では、内壁の仕上塗材や下地材に石綿が混入されているケースが多々あります。
PCB(ポリ塩化ビフェニル): 過去の新聞報道等でも、学校施設の塗料にPCBが含まれていた事例が報告されており、風化した粉塵の吸入は発がん性のリスクを伴います。
近年、大手新聞各紙でも、公立学校の施設から基準値を超えるPCBやアスベストが検出され、適切な処理がなされないまま放置されていた実態が報じられています。特に「剥がれ落ちた塗料粉塵」の飛散は、子供たちが無意識に吸い込むリスクを直結させます。
- 微細粉塵と児童への影響
室内環境と健康に関する研究(室内空気質研究)において、古い建材の劣化は「物理的な危険」以上に「化学的な危険」として危惧されています。
呼吸器への影響: 学術論文等では、微細な塗料片や建材粉塵が気管支を刺激し、喘息の悪化やアレルギー反応を引き起こす要因になることが指摘されています。
成長期における曝露リスク: 児童・生徒は大人に比べて呼吸数が多く、体重あたりの空気吸入量が多いため、微量の有害物質であってもその影響を強く受けやすいことが、小児環境医学の知見から明らかになっています。
- 表面的な「塗り替え」で終わらせない
私たちは建物診断のプロとして、単に「壁が傷んでいる」と報告するだけでは不十分だと考えています。
事前調査の徹底: 改修工事を行う前に、剥離している塗料に何が含まれているか(PCBやアスベストの有無)を正確に分析すること。
緊急性の再定義: 「見た目の悪さ」ではなく「健康へのリスク」を基準に、死角となっている場所の優先順位を上げること。
子供たちの「日常」を安全なものに
子供たちは、学校という場所を信じて日々を過ごしています。大人の都合や予算の優先順位によって、彼らが吸い込む空気が汚染されていいはずがありません。
弊社はこれからも、子供たちの安全と健康に着目した施設の点検調査に努めてまいります。

